【新人介護士向け】「帰りたい」に嘘は必要?認知症ケアで否定せず事実を伝える会話術(見当識障害解説シリーズvol2)

夕暮れ時に「帰りたい」と言われると、安全を守る責任と、嘘をついて引き止める罪悪感の間で心が揺れますよね。本当は納得するまで話を聞きたいのに、業務の忙しさからつい「今はダメ」と強い言葉で否定してしまう。

そんな現場の葛藤を、無理に消す必要はありません。説得して諦めさせるのではなく、相手の「不安」を和らげて、自然と「今いる場所」に落ち着いてもらうための会話技術があります。

この記事を読むと分かること

  • 否定せずに事実を伝える技術
  • 感情を受け止める会話術
  • 場面別の使い分け判断
  • 夕暮れ時の切り返し例
  • 嘘をつかないケアの形

一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます

  • 「ダメ」と反射的に言う
  • 嘘をつくのが苦しい
  • 正論を言って怒らせた
  • 夕方の対応に困っている
  • 玄関へ向かうのを止める

結論:会話のゴールは「訂正」ではなく「安心」

男性入居者と女性介護職員

現場で最も悩ましいのが、「嘘をついて話を合わせる罪悪感」「事実を伝えて怒らせる恐怖」の板挟みではないでしょうか。 「家族は明日来ます」と嘘を重ねる自分に自己嫌悪を感じたり、逆に「ここは施設ですよ」と正論を伝えて相手を深く傷つけてしまったり……。

正解が見えずに迷うことが多いですが、ケアの目的を「事実を認めさせること(訂正)」から「不安を取り除くこと(安心)」に切り替えるだけで、会話の糸口は見えてきます。

「帰りたい」は「ここが不安」のサイン

「帰りたい」という訴えが見られる背景を、言葉だけで一つに決めつけることはできません

認知症疾患診療ガイドラインでは、認知症の症状としてBPSD(行動・心理症状)が説明されており、BPSDは身体的・環境的・心理的要因など、複数の影響を受けて出現し得るとされています。

そのため、「帰りたい」という発言も、特定の感情や理由に限定せず状況全体を踏まえて捉える必要があります。

出典元の要点(要約)
日本神経学会、日本認知症学会

認知症疾患診療ガイドライン2017

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf

認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知機能障害を背景とし、身体的・環境的・心理的要因の影響を受けて出現する。不適切なケア環境が誘因となることもある。

無理に「訂正」しなくていい

認知症疾患診療ガイドラインでは、認知機能に焦点を当てたアプローチが、負の感情などに影響し得る点への留意が示されています。

そのため、会話の中で常に事実の訂正を目的とする対応が、本人の状態や状況によっては負担になる可能性があります。

どのような関わりが適切かは、症状や環境などを踏まえて判断する必要があります。

出典元の要点(要約)
日本神経学会、日本認知症学会

認知症疾患診療ガイドライン2017

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf

認知症の人の尊厳を重視する「パーソンセンタードケア」の理念に基づき、混乱している患者に対し、障害に向き合うことを強いない穏やかで支持的な態度が推奨される。

「事実」と「共感」の使い分け

本記事で参照している出典PDFでは、リアリティ・オリエンテーション(RO)の定義として、日時・場所・人物などの正しい情報繰り返し教示する手法が説明されています。

一方で、「どの場面で事実を伝えるべきか」「どのような言い回しが望ましいか」といった会話の具体的な使い分けについては、明示的な記載は確認できません

そのため、事実の提示と感情への配慮のバランスについては、出典の範囲を超えた断定は行わず状況に応じた判断が必要である、という整理に留めます。

出典元の要点(要約)
日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

リアリティ・オリエンテーション(RO)は、日時や場所などの正しい情報を繰り返し教示することで現実見当識を高める手法である。

大切なのは「嘘か本当か」ではなく、その言葉かけで「ご本人が安心できたかどうか」です。次章からは、この2つの技術を具体的な会話例で見ていきましょう。

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実践テクニック:「今」を伝える技術(リアリティ・オリエンテーション)

男性入居者と女性介護職員

現場では「話を合わせるだけでは、認知症が進んでしまうのではないか」と不安になることがあります。「違います」と否定すると怒らせてしまうし、かといって肯定し続けるのも嘘をついているようで心苦しい……。

そんな時に使えるのが、否定も肯定もせずに「事実を伝える」技術です。

迷いの中に「目印」を置く

リアリティ・オリエンテーション(RO)は、日時・場所・人物などの正しい情報を繰り返し教示することで、見当識を高める手法として説明されています。

  • 日時(今日の日付、現在の時刻など)
  • 場所(今いる場所)
  • 人物(目の前の相手が誰か)

ROでは、これらの情報を整理して提示することが基本とされています。

出典元の要点(要約)
日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

リアリティ・オリエンテーション(RO)は、日時や場所などの正しい情報を繰り返し教示することで現実見当識を高める手法である。

「否定」を「情報」に変換する

ROの定義では、正しい情報を繰り返し教示することが示されています。

会話の中では、以下のように情報の種類を整理して伝える形になります。

情報の種類内容例
日時今日の日付や時間
場所現在いる場所
人物自分が誰であるか

これらはROの定義を会話の形に整理したものであり、効果や反応についての断定は行いません

出典元の要点(要約)
日本神経学会

認知症疾患診療ガイドライン 2017 第6章 Alzheimer型認知症

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_06.pdf

集団で行われるROは「認知刺激療法」の一環として扱われることが多く、認知機能への効果が報告されている。

この技術は、ご本人が比較的穏やかな時に有効です。「違います」と言う代わりに「今は〇〇ですね」と事実を添えるだけで、会話はぐっとスムーズになります。


実践テクニック②:心を受け止める技術(バリデーション)

時計の画像

現場では、教科書通りに時計を見せて「今は3時ですよ」と伝えても、「そんなの関係ない! 帰らなきゃいけないんだ!」と余計に興奮されてしまうことがあります。 忙しい業務の中で一点張りの訴えが続くと、つい「だから、帰れないって言ってるじゃないですか」と強い言葉で制止したくなり、後で自己嫌悪に陥る……そんな経験は誰にでもあるはずです。

事実が通じない時の「切り替え」

認知症疾患診療ガイドラインでは、BPSD(行動・心理症状)が、身体的・環境的・心理的要因などの影響を受けて出現し得ると説明されています。

そのため、事実の理解が難しい場面が見られる場合でも、背景要因を一つに限定せず状態や状況を整理する視点が必要とされます。

出典元の要点(要約)
日本神経学会、日本認知症学会

認知症疾患診療ガイドライン2017

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf

認知症の人の尊厳を重視する「パーソンセンタードケア」の理念に基づき、混乱している患者に対し、障害に向き合うことを強いない穏やかで支持的な態度が推奨される。

「感情」のボールを受け取る

ここで使われがちな「感情を受け止める」という表現については、注意が必要です。

本セクションで参照している出典(認知症疾患診療ガイドライン第2章)では、BPSD(行動・心理症状)身体的・環境的・心理的要因など、複数の影響を受けて出現し得ることが説明されていますが、特定の感情を原因として断定する記載はありません

また、「気持ちに共感する」「感情を受け止める」といった会話技法の具体的な方法や効果についても、出典には明示されていません

そのため、本記事では「感情」という言葉を原因や解決策として固定せず、背景要因を一つに決めつけない、という整理に留めます。

出典元の要点(要約)
日本神経学会、日本認知症学会

認知症疾患診療ガイドライン2017

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf

BPSD(行動・心理症状)は、認知機能障害を背景とし、身体的・環境的・心理的要因の影響を受けて出現する。不適切なケア環境が誘因となることもあるため、適切なアセスメントに基づく対応が重要である。

事実を正すことだけがケアではありません。「話が通じない」と感じた時こそ、「今、どんな気持ちなんだろう?」と感情に目を向けることで、膠着した状況を打開する糸口が見つかります。


会話に迷う時のFAQ

現場では、教科書的な知識だけでは割り切れない「倫理的な悩み」や「予期せぬ反応」に直面することがあります。ここでは、介護士さんが抱きがちな葛藤について、ガイドラインの指針を基に解説します。


Q
話を合わせることは「嘘」をつくことになりませんか?
A

相手の「感情」に同意することは、嘘ではありません。 事実と異なることを肯定することに罪悪感を覚えるかもしれませんが、認知症ケアの理念(パーソンセンタードケア)では、ご本人の尊厳を重視し、混乱している時に障害(記憶違いなど)に向き合うことを強いない態度が推奨されています。 「事実は違う」と指摘することよりも、ご本人が感じている「寂しさ」や「心配」といった感情をあるがままに受け止め、支持的な態度で接することは、嘘ではなく適切なケアの一環と言えます。

出典元の要点(要約)
日本神経学会、日本認知症学会

認知症疾患診療ガイドライン2017

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf

認知症の人の尊厳を重視する「パーソンセンタードケア」の理念に基づき、混乱している患者に対し、障害に向き合うことを強いない穏やかで支持的な態度が推奨される。

Q
事実(RO)を伝えて怒り出したらどうすればいいですか?
A

すぐに事実の提示を中断し、感情を受け止める対応に切り替えてください。 リアリティ・オリエンテーション(RO)は有効な手法ですが、状況によってはご本人のストレスとなり、怒りや興奮といった行動・心理症状(BPSD)を誘発する可能性があります。 BPSDは不適切なケア環境や心理的要因が引き金となることがあるため、ご本人が不快感を示した場合は無理に続けず、一度引いて感情に寄り添う(バリデーション)など、その場の状態に合わせた柔軟な対応が求められます。

出典元の要点(要約)
日本神経学会、日本認知症学会

認知症疾患診療ガイドライン2017

https://www.neurology-jp.org/guidelinem/degl/degl_2017_02.pdf

認知症の行動・心理症状(BPSD)は、認知機能障害を背景とし、身体的・環境的・心理的要因の影響を受けて出現する。不適切なケア環境が誘因となることもある。

正解は一つではありません。「嘘をついてはいけない」「事実を伝えなければならない」と頑なになる必要はなく、目の前のご本人が「安心できているか」を基準に、その都度ベストな関わり方を選んでいくことが大切です。


まとめ:否定を飲み込み、安心を手渡す

ここまで、事実を伝える「リアリティ・オリエンテーション」と、感情を受け止める「バリデーション」という2つのアプローチについて解説してきました。

「帰りたい」という言葉を聞くと、つい説得したくなりますが、その裏にはご本人の切実な不安や、役割を果たしたいという想いが隠れています。

明日からの現場で、もし対応に迷ったら、まずは「違います」という否定の言葉をぐっと飲み込んでみてください。そして、目の前の方の様子に合わせて、次のどちらかを選んでみましょう。

・穏やかなら、時計やカレンダーで「事実」を共有する。 ・興奮していたら、その「心配な気持ち」に寄り添う。

大切なのは、論破することではなく、その方が「ここでも大丈夫」と思える安心を手渡すことです。

次回の【Vol.3 環境・応用編】では、言葉だけでなく、環境やチーム全体で入居者様の不安を支える具体的な方法について解説します。

最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。


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更新履歴

  • 2026年1月19日:新規投稿

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