不衛生な環境でも「困っていない」と支援を拒む利用者に対し、命を守る責任と本人の自由の板挟みで、眠れない夜を過ごしていませんか。
説得しても関係が悪化するばかりで、どうすればいいか正解が見えない。そんな膠着状態を動かすには、白黒つける前に試せる対話のプロセスがあります。
この記事を読むと分かること
- 意思決定能力の正しい捉え方
- 「拒否」の裏にある本音の探し方
- 安全と自由の調整プロセス
- チームで合意形成する手順
- 明日使える具体的な質問例
一つでも当てはまったら、この記事が役に立ちます
結論:白黒つけられないからこそ。「結果」ではなく「プロセス」を支える

「説得して入所させないと、万が一の時に責任を問われる」「低も無理やり連れ出すのは人権侵害ではないか」。
現場では、この相反する責任の間で押しつぶされそうになります。しかし、私たち専門職が目指すべきゴールは、説得して従わせるという「結果」ではありません。
本人の意思と安全のバランスを、チームで悩みながら調整したという「プロセス(過程)」そのものを積み重ねることが、本人を守り、そして支援者自身を守ることにつながると考えられます。
「できない」と決めつけない。能力はグラデーション
認知症の診断がついたからといって、すべての判断能力が失われるわけではありません。
意思決定能力は「ある・なし」の二つにきっぱり分かれるものではなく、その時の体調や環境、そして「どのような支援があるか」によって変化する連続的なものです。
「認知症だから無理」と諦めず、環境を整えたり伝え方を工夫したりすることで、残された力(残存能力)を活かして意思決定できる可能性を探ることが支援の第一歩になると考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定能力は「ある」か「ない」かの二元論で捉えられるものではなく、連続的なものであり、その行為の内容や状況等によって相対的に判断されるべきものである。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定能力の判定にあたっては、認知機能の低下があっても、意思決定能力が全て失われるわけではないことに留意し、残存能力を活用する視点を持つことが重要である。
一人で抱え込まず、チームで「最善」を探る
「家にいたい」という本人の言葉と、「安全な場所へ」という客観的な利益が対立する場合、ケアマネジャーひとりで判断を下すのは危険です。
まずは医師による認知機能の評価を行い、本人がどの程度状況を理解できているかを確認します。その上で、本人のこれまでの生活歴や価値観(選好)に基づき、「なぜ家にいたいのか」を深掘りします。
この情報を持ち寄り、多職種で構成されるチームで検討するプロセスを踏むことが重要とされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
表明された意思と客観的利益が対立する場合、かかりつけ医等による医学的評価や、本人の選好(価値観・人生観等)に基づき、意思決定支援チーム等で合意形成を図るプロセスが重要である。
「本人のため」が通用しない? 現場で判断に迷う2つのケース

「本人の意思を尊重しましょう」。研修ではそう習いますが、現場には「ゴミ屋敷で暮らす自由」や「転倒リスクのある在宅生活」を、本当に認めていいのか迷う場面が多々あります。
きれいごとでは片付かない、判断に苦しむ典型的な2つの事例から、具体的な向き合い方を見ていきましょう。
事例1:「ゴミ屋敷でも困っていない」と拒否するセルフネグレクト
足の踏み場もない自宅。「片付けましょう」と提案しても、「困っていないからいい」と拒否される。このような場合、「本人がいいと言っているから」と介入を諦めてしまうことはありませんか。
しかし、意思決定能力は「ある・なし」の二択ではありません。認知機能が低下していても、部分的な判断は可能です。
「全部片付ける」ではなく、「寝る場所だけ確保する」といった小さな選択肢を提示したり、なぜ片付けたくないのかという背景(変化への不安など)を探ったりする「意思形成支援」を行うことが推奨されます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定能力は、行為の内容や状況等によって相対的に判断されるべきものである。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
本人が理解しやすいように、情報を適切な方法で提供し、本人の意思形成を支援することが重要である。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
自分らしい生活を継続するために、どのような支援が必要かを具体的に提示し、本人が選択できるようにすることが求められる。
事例2:「家に帰りたい」本人 vs「施設に入れたい」家族
「火の不始末が怖いから施設へ」という家族と、「絶対に家がいい」という本人。板挟みになったケアマネジャーが、安全(客観的な利益)を優先して本人を説得しようとするケースです。
しかし、たとえ成年後見人がついていたとしても、本人の意思尊重は職務上の義務であり、無視していい理由にはなりません。
即座に「施設か在宅か」を決めるのではなく、「なぜ家がいいのか(馴染みの環境、役割)」という本人の価値観(選好)を深掘りし、どこまでならリスクを許容できるか、チームで合意形成を図るプロセスが重要とされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
成年後見人は、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
表明された意思と客観的利益が対立する場合、本人の選好(価値観・人生観等)に基づき、意思決定支援チーム等で合意形成を図るプロセスが重要である。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
成年後見制度は、判断能力が不十分な人を支援する制度であり、本人の意思を尊重することが求められる。
「本人のため」が拒絶されるのはなぜ? 支援を阻む3つの壁

「あなたが説得して連れて行って」。家族や近隣からのプレッシャーと、「でも本人は嫌がっている」という事実。板挟みになるのは、支援者が無力だからではありません。
そこには、本人の性格という問題以上に、私たち支援者が陥りやすい思考のクセや、良かれと思う支援が空回りしてしまう構造的な理由があります。
「できる・できない」の二者択一思考
私たちはつい、意思決定能力を「正常か、認知症か」「できるか、できないか」のゼロか百かで判断してしまいがちです。
「認知症だから何も決められない」と思い込んで支援を諦めたり、逆に「しっかり喋れるから大丈夫」と放置してしまったりするなど、この二元論で捉えることが、本人の「助けてほしいサイン」を見逃す原因になる可能性があります。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定能力は「ある」か「ない」かの二元論で捉えられるものではなく、連続的なものであり、その行為の内容や状況等によって相対的に判断されるべきものである。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定能力の判定にあたっては、認知機能の低下があっても、意思決定能力が全て失われるわけではないことに留意し、残存能力を活用する視点を持つことが重要である。
飛ばされがちな「意思形成」のプロセス
「施設に行きますか? イエスかノーか」。私たちは結論を急ぐあまり、いきなり結果を求めてしまいがちです。
しかし、意思決定には、情報を理解して自分の考えをまとめる「意思形成」、それを他者に伝える「意思表明」、実際に実行する「意思実現」の3つの段階があります。
多くの利用者は、最初の「情報を理解し、考えをまとめる段階(意思形成)」でつまずいていることがあります。そこを支えずに「どうしたい?」と聞かれても、不安から「拒否」を選ばざるを得ない状況が生じる可能性が考えられます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定支援には、意思形成支援、意思表明支援、意思実現支援の3つのプロセスがある。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思形成支援とは、本人が自らの価値観や選好に基づき、意思を形成できるように、必要な情報を提供し、理解を促す支援である。
「安全」こそが正義というバイアス
専門職として、利用者の命や健康を守りたいと思うのは当然です。しかし、その「安全・安心」という客観的な利益が、時として本人の「自由でありたい」という意思と対立します。
現場ではどうしても、リスクを回避するために「安全」を優先し、本人の意思を「解決すべき問題行動」として扱ってしまいがちです。このバイアスに気づかないまま説得を重ねても、平行線をたどるばかりです。
出典元の要点(要約)
厚生労働省認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
認知症の人の意思決定支援においては、本人の意思(表明された意思)と、本人の最善の利益(客観的利益)が対立する場合がある。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
意思決定支援は、保護の観点のみならず、本人の意思決定を支援するという観点への転換が求められている。
現場の「迷い」に答えるQ&A
「どこまで踏み込んでいいのか」「誰が決めるべきなのか」。現場で直面する法的・倫理的な迷いに対し、ガイドラインに基づいて回答します。
- Q本人が拒否していても、命の危険がある場合は無理やり介入してもいいですか?
- A生命や身体の安全が脅かされる緊急性が高い場合には、老人福祉法や高齢者虐待防止法などに基づく保護が優先されることがあります。
ただし、これはあくまで例外的な対応です。基本的には、時間をかけて信頼関係を築き、本人の意思形成を支援するプロセスを尽くすことが原則とされています。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
生命・身体の安全が脅かされるような緊急性が高い場合には、必要な保護を行うことが許容される場合がある。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
自傷他害のおそれがある場合など、緊急性が高い場合には、安全確保のための対応が必要となる。
- Q成年後見人をつけたら、ケアマネの代わりに全部決めてもらえますか?
- Aいいえ、成年後見人の主な役割は財産管理や契約行為であり、実際の介護や生活の世話(事実行為)は行いません。
また、後見人にも「本人の意思を尊重する義務」があります。後見人が独断ですべてを決めるのではなく、ケアマネジャーなどの支援チームと連携し、本人の意向を汲み取って判断することが求められます。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
成年後見人は、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(民法858条)。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第 2 版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf
成年後見制度は、判断能力が不十分な人を支援する制度であり、本人の意思を尊重することが求められる。
- Q「どうしたいですか?」と聞いても「わからない」と言われます。どうすればいいですか?
- A漠然とした質問は答えにくい場合があるため、具体的な選択肢を示したり、写真や実物を見せたりする工夫(意思形成支援)を行うことが重要です。
また、言葉だけでなく、表情や行動から「快・不快」を読み取ることも重要な支援です。本人の反応をよく観察し、何が好きで何が嫌かという選好(好みや価値観)を探ってみることが大切です。
出典元の要点(要約)
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
本人が理解しやすいように、情報を適切な方法(視覚的情報など)で提供し、本人の意思形成を支援することが重要である。
厚生労働省
認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000212396.pdf
言語的なコミュニケーションが困難な場合でも、非言語的なサイン(表情、行動など)から本人の意思を推測することが重要である。
法的な判断や本人の本当の気持ちは、一人では見えにくいものです。迷ったときこそガイドラインに立ち返り、チームで「本人のためのプロセス」を確認し合うことが、支援者の安心にもつながります。
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白黒つけず、揺れ動く「プロセス」に寄り添う
「家にいたい」けれど「不安もある」。そんな本人の揺れ動く気持ちに寄り添い続けることは、決して楽なことではありません。
欲に結論を出そうとせず、「なぜそう思うのか」という背景を一つ聞くだけでも、それは立派な意思決定支援の第一歩です。
チームで悩み、話し合い、本人の思いを記録に残す。その地道なプロセスこそが、本人と支援者を守ることにつながると考えられます。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事がお役に立てれば幸いです。
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更新履歴
- 2026年1月29日:新規投稿







