【介護】ナースコールへの殺意を消す技術。アンガーマネジメントが効かない理由

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「この人がいなければ」というふとした瞬間の感情や、耳に残るナースコールの音。
現場では少なくない職員が、こうした自分の中の攻撃性に恐怖し、誰にも言えず一人で抱え込んでいることがあります。

しかし、その感情は性格の歪みではなく、過酷な環境下で脳が起こしうる正常な防衛反応と考えられます。

この記事を読むと分かること

  • 「殺意」が脳の生理現象とされる理由
  • 疲労時のポジティブ思考が逆効果なわけ
  • 紙に書いて捨てる「脳内リセット術」

一つでも当てはまったら、この記事が参考になります

  • ナースコールの音が耳に残っている
  • 「死ねばいいのに」と思ってしまう
  • 愚痴を言ってもスッキリしない

結論:「性格が歪んだ」のではない。脳が「攻撃モード」に固定されている場合がある

女性の介護職員の画像

「優しくありたい」という理想があっても、ワンオペの夜勤や終わらない業務の前では、心に余裕を持つことなど物理的に難しい状況です。
現場で湧き上がる「利用者への憎しみ」は、あなたが冷酷だからではなく、極限状態の脳の反応の一つと捉えられます。

怒りは「攻撃行動」への準備状態(接近動機づけ)である

怒りを感じると、生物として「対象(利用者)に近づいて、自分の身を守ろう」とする動機づけ(接近動機づけ)が脳内で高まることがあります。
これは「優しい・冷たい」といった個人の性格の問題ではなく、理不理な状況から身を守るための生理的な反応とされます。

つまり、あなたが利用者にイライラするのは、過酷な環境(資源や縄張りの侵害)に対する正常な防衛反応である場合があり、脳の反応の一つともいえます。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

基本情動のなかでも特に強い主観的経験として自覚される怒りは、資源や集団といったさまざまな意味での縄張りを守る機能があると考えられており、状況に応じて怒りを高めたり表出したりすることは、理不尽な攻撃に立ち向かい身を守るために必要である。

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りは,接近動機づけと関連する感情であり(Carver & Harmon-Jones, 2009),攻撃行動を動機づける感情である。

抑圧すると「自然に乱れる介護」の引き金になりうる

この衝動を「プロだから」と精神力だけで抑え込もうとすると、脳への負荷が限界を超えることがあります。
その結果、ふとした瞬間に乱暴な言葉(スピーチロック)といった「自然に乱れる介護」として表出することがあります。

さらに厄介なのは、そうした行動をとってしまった後に襲ってくる「自己嫌悪」だと感じられる点です。

出典元の要点(要約)

一般社団法人 日本社会福祉学会

介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf

「“自然に乱れる介護”とは‘利用者との関わりのなかで,自然に声がけが乱暴になったり,利用者への対応が乱暴になってしまうこと’である.」「諸種の苛立ちが重なり,自分の中にたまり,つい利用者への対応の場面で,声を荒げてしまったり,スピーチロックをしてしまったりと,自然と自分の介護が乱れていくということである.」

一般社団法人 日本社会福祉学会

介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf

「“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定したりすること’である」

感情を「物理的に捨てる」技術が有効な場合がある

思考を変えようとするのではなく、物理的な動作で対処することも有効な場合があります。
具体的には、怒りの感情を紙に書き出し、それを丸めてゴミ箱に捨てるという方法です。

子供騙しのように思えるかもしれませんが、この「書いて捨てる(廃棄法)」という行為により、主観的な怒りの程度が低減する可能性があると研究で示されています。
脳に「この感情は処理済みである」と物理的に感じさせることが、負担の少ない対処法の一つだと考えられます。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りの感情を抱いた出来事について紙に書き出し,その紙を丸めてゴミ箱に捨てることで,主観的な怒りの程度が低減することが示された。

利用者を憎む感情は「接近動機づけ」という脳の生理現象として捉えられ、性格の問題に限りません。無理に抑え込むと「不適切な介護」や「自己嫌悪」の悪循環を招くことがあるため、紙に書いて捨てる物理的な対処を試すことを提案します。


現場で「憎しみ」に変わる瞬間 3選

男性入居者の画像

「利用者様に寄り添いたい」という思いはあっても、現実は分刻みのスケジュールと人手不足との戦いです。
現場では、少なくない人が以下のパターンのような「逃げ場のない状況」で、突発的な怒りに襲われています。

終わらない業務とナースコールの板挟み

状況夜勤でオムツ交換に追われている最中、同じ部屋から何度もナースコールが鳴る。
困りごと「行かなきゃ」と思う反面、業務が滞る焦りで「この人さえいなければ」という極端な思考がよぎる。
視点個人の性格ではなく、「迫りくる時間への焦り」が引き金となって起こりうる生理的な反応プロセスです。
出典元の要点(要約)

一般社団法人 日本社会福祉学会

介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf

「自分の担当業務を時間内に終わらせなければならないという“迫りくる時間への焦り”があった.」

一般社団法人 日本社会福祉学会

介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf

「終わらない業務への焦り」と「利用者への苛立ち」が悪循環し、感情が爆発しやすくなる。

良かれと思ったケアへの拒絶・暴力

状況入浴拒否のある方に対し、時間をかけて説得し浴室へ誘導したが、シャワーをかけた瞬間に叩かれた。
困りごと「あなたのためにやったのに」という徒労感と、暴言によるショックで頭が真っ白になる。
視点身体的な痛み以上に、専門職としての「自尊心」が深く傷つくことがあります。
この精神的ダメージが、無意識の攻撃衝動(憎しみ)につながることがあります。
出典元の要点(要約)

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

「認知症高齢者からの暴言・暴力(BPSD)を受けることによる精神的ダメージ」「ケアの拒否や暴言・暴力は、ケア実践者の自尊心を損ない、トラウマのような精神的禍根を残す可能性がある」

ふとした瞬間の「自己嫌悪」

状況忙しさのあまり、つい強い口調で「ちょっと待って!」と制止してしまった。
困りごとその後、冷静になった時に「自分は虐待をする人間になってしまったのか」と恐怖する。
視点これは「自然に乱れる介護」と呼ばれることがある現象です。
この後の「自分への嫌悪」がさらなるストレスとなり、次の苛立ちを生む悪循環に入ることがあります。
出典元の要点(要約)

一般社団法人 日本社会福祉学会

介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf

「“自然に乱れる介護”とは‘利用者との関わりのなかで,自然に声がけが乱暴になったり,利用者への対応が乱暴になってしまうこと’である」

一般社団法人 日本社会福祉学会

介護職員が利用者に対して苛立っていくプロセス

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssw/60/4/60_56/_pdf

「“苛立つ自分への嫌悪・否定”とは‘利用者にイライラしてしまった自分に対して嫌悪感を抱いたり,援助者としての自分を否定したりすること’である」

業務への焦りやケアの拒絶は、誰にでも起こりうる苛立ちのトリガーだと考えられます。特に「つい強い口調になる」ことは個人の資質ではなく、余裕のなさから自然発生するプロセスだと捉え、理解することが重要です。


なぜ「アンガーマネジメント」が現場で効きにくいのか

女性の介護職員の画像

「イラッとしたら6秒待ちましょう」「相手の立場になって考えましょう」
研修でそう習っても、実際の現場で暴言を吐かれた瞬間、そんな余裕はほとんど残っていないのが現実です。

なぜ、教科書通りの方法が現場では役に立たないのでしょうか。
それは、あなたの努力不足ではなく、脳のエネルギー(認知資源)が枯渇している可能性があるからです。

疲れた脳に「ポジティブ変換」は難しいから

  • 建前
    • 利用者の暴言を「病気のせいだから仕方ない」と前向きに捉え回す(再評価)。
  • 現実
    • 夜勤明けや疲労困憊の状態では、この脳機能自体が低下しており、実行が難しい場合があります。

物事をポジティブに捉え直すには、脳の前頭前野という部分を使い、多大なエネルギーを消費します。
ただでさえ業務に追われ、身体的なストレスがかかっている状態では、脳はこの高度な処理を行いにくくなります。

出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが、即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り、生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる。

6秒待っても「記憶」が追いかけてくるから。

  • 建前
    • その場を離れて時間を置けば、怒りは収まる。
  • 現実
    • 休憩室に行っても、さっき言われた酷い言葉が頭の中で何度も再生され(反すう)、怒りが消えにくい。
  • 理由
    • 脳には、嫌な記憶を繰り返すことで怒りを維持・再燃させる性質があるため、ただ待つだけでは逆効果になることがあります。
出典元の要点(要約)

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒り感情を喚起した出来事を繰り返し想起する反すう(rumination)は,怒りの主観的感情や生理的反応を維持・再燃させ,攻撃行動を増加させる。

「我慢すること」だけが解決策ではありません

  • 建前
    • プロとして感情を顔に出さず、常に笑顔で接するべき。
  • 現実
    • 本心を殺して笑顔を作り続けること(感情労働)は、精神を削り、燃え尽き(バーンアウト)を招く。

「我慢すること」だけが解決策ではありません。
感情を抑圧し続けることは、非常に高いコストを伴う労働であり、限界を超えると突発的な爆発や離職につながることがあります。

出典元の要点(要約)

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

感情労働として,自分の本当の感情を抑圧し,専門職としてふさふさしい感情を表現することが求められる

日本看護科学会

介護施設における認知症ケア実践者の精神的負担の概念分析

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/45/0/45_214/_pdf/-char/ja

感情労働はバーンアウトや精神的健康の悪化に関連する

従来のアンガーマネジメントが効かないのは、現場がすでに「脳の認知資源」を使い果たしている状態だと考えられるからです。疲弊した脳に「考え方を変えろ」と強いるのは酷だと感じられ、別の物理的なアプローチが必要だと考えられます。


「きれいごと」ではない現場の疑問

現場でよく耳にするストレス解消法の中には、脳科学的に見ると逆効果になりうるものも存在します。
ここでは、実験心理学の知見に基づき、現場の迷いに回答します。

Q
Q. 物に当たったり、同僚に愚痴を言うのはストレス発戦になりますか?
A
いいえ、逆効果になる可能性があります。

怒りを何かにぶつける「発散(カタルシス)」は、一時的にスッキリした気がしても、かえって怒りや攻撃行動を増加させる可能性が研究で示されています。

愚痴を言うことも同様に、怒りを反すうさせるリスクがあるとされます。

出典元の要点(要約)
日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りの対象とは無関係な対象への攻撃(壁を殴るなど)や発散(愚痴を言うなど)は,カタルシス効果が得られないだけでなく,怒りや攻撃行動を増加させる可能性が高い

Q
Q. カッとなった瞬間、その場でできることはありますか?
A
椅子の背もたれに寄りかかり、「後ろ」に反ってみてください

怒りは対象に向かう「前に出る(接近)」動きと連動することがあります。

あえて後傾姿勢(リラックスした後ろ向きの姿勢)や仰向けになることで、怒りに関連する反応を抑える効果が期待されることがあります。

出典元の要点(要約)
日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

怒りによる接近動機づけと拮開する身体的姿勢(仰臥位や後傾座位)をとらせることで,怒りに関連する生理反応や神経反応が抑制される

日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

接近動機づけと関連する怒りにおいては,接近動機づけと拮開する身体的姿勢や動作を行うことが,怒りの経験や攻撃行動を低減させる可能性がある。

Q
Q. 家に帰っても利用者の顔が浮かぶ時はどうすれば?
A
天井のカメラから自分を見るようにイメージしてください。

自分の視点(没入)ではなく、第三者の視点(観察者視点)で出来事を振り返る「自己距離化」を行うと、主観的な怒りが減ることがあると報告されています。

「あの時、自分はこう言われて腹を立てたんだな」と他人事のように実況するのがコツだと考えられます。

出典元の要点(要約)
日本心理学会

怒りの制御方略に関する研究動向と展望 ――実験研究を対象とした検討

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/96/2/96_96.23402/_pdf/-char/ja

観察者の視点から怒り喚起場面を再解釈する自己距離化(self-distancing)を行うことで,主観的な怒りや攻撃行動が減少する

良かれと思ってやっている「発散」が怒りを増幅させることがあったり、逆に単なる「姿勢」が怒りを鎮めることがあったりすることがあります。感覚に頼らず、脳の仕組みに合った方法を選ぶことが、自分を守る助けになると考えられます。


まとめ:明日、ポケットにメモ帳を忍ばせてください

ここまで読んでも、「現場の忙しさは変わらないし…」と諦めかけの気持ちがあるかもしれません。
そんなあなたに、明日から試せる一つのことを提案します。

制服のポケットに、小さなメモ帳とペンを入れておくだけです。
そして、イラッとした直後、誰にも見られない場所でその怒りを書き殴り、ゴミ箱に捨ててください。

この「廃棄法」は、脳に「怒りは処理済み」と認識させる助けになることがあります。
自分を責める時間を、紙に書く時間に変える。それだけで、あなたの心が守られる助けになることがあります。

あなたが潰れずに働き続けられることが、結果として利用者様の安全を守ることにつながる場合があると考えられます。
最後までご覧いただきありがとうございます。この記事が、少しでも日々の負担を軽くするお守りになれば幸いです。


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更新履歴

  • 2025年9月10日:新規公開
  • 2025年10月21日:一部レイアウト修正
  • 2025年12月24日:より詳細なエビデンス(根拠)に基づき解説を充実させるとともに、最新のサイト基準に合わせて構成・レイアウトを見やすく刷新。
  • 2026年2月15日:記事全体をリライト

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