介護・認知症のイライラを減らす現場実践5選

介護・認知症のイライラを減らす現場実践5選 コラム

時間に追われる中で、同じ質問に繰り返し答えたり、動作の遅さに根気強く付き合ったりするのは大きな負担となり、現場でのイライラや緊張を強めやすい状況です。

結論として、短文→待つ→同一表現視覚ヒント・手順分割・2択を軸にした標準化は、衝突の回避やBPSD悪化の予防・軽減に資する可能性が高いと示されています。」(厚労省ガイドライン)。厚生労働省のガイドラインでは非薬物的介入が第一選択とされ、国立長寿医療研究センターのマニュアルでは環境調整と多職種連携が推奨されています。J-STAGEの論文では反応を待つ重要性が示されています。

人差し指を上げている女性介護職員

💡この記事を読んで分かる事
厚生労働省のガイドラインや国立長寿医療研究センターのマニュアル、J-STAGEの論文を根拠に、短文→待つ→同一表現と視覚ヒント・手順分割・2択を活用した7つの実践方法が理解できます。


🔷結論:イライラは手順で消す——短文→待つ→同一表現+視覚ヒント・手順分割・2択を標準化する

時間に追われる現場で、同じ質問の反復や動作の遅さに直面すると、緊張と負担は増えがちです。だからこそ、感情ではなく「手順」で安定させる設計が要になります。

笑顔の女性介護職員

🔶合言葉の統一(主語+1文→5〜10秒→同一表現)

厚生労働省の研修資料では「短く、分かりやすく、急かさない」関わりが推奨されています。同じ表現で繰り返し、5〜15秒程度を目安に“待ち”を入れ(DLB等では10〜20秒が有効な場合あり)、理解と安心が積み上がります🙂。

  • 例: 「ごはんです」→(待つ)→「こちらです」→(指差し)
  • 言い換えず“同一表現”で再提示

DLBとは?
レビー小体型認知症のことで、幻視や認知のゆらぎ、パーキンソン症状が特徴的な認知症の一つです。

※エビデンス

厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
認知症の中核症状とコミュニケーションの基本を整理。「はっきり・ゆっくり・一度に一つの指示」「驚かせない・急がせない」を明示し、短い声かけと反応を待つ姿勢が理解を助けるとまとめています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

🔶見える化(日付・予定の掲示(“今”カード等)・指差し・色分け)

厚生労働科学研究の報告では、視覚的手がかりが行動の安定に有用と言われています。日付・予定の“今”カードや指差しで情報を可視化し、質問の反復を減らします📄。

※エビデンス

厚生労働科学研究(厚生労働省研究班)
令和元年度 総括・分担研究報告書「認知症の人と家族のケアのために」
家庭・施設での実践を整理。環境調整や視覚的手がかり(掲示・ラベル化)を推奨し、「一度に一つの指示」「見通し提示」により不安軽減と自立支援が進むことを示しています。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192121/201917009A_upload/201917009A0005.pdf

🔶遂行支援(手順分割と2択)

厚生労働省の研修資料では、実行機能の負荷を軽減するために「一動作ずつ伝えること」と「選択肢を二つに絞ること」が推奨されています。例えば更衣の場面では、「右腕を通しましょう」→(待つ)→「次は左腕ですね」と、順序を分けて案内するのが効果的です。また、「今日は青い上着とグレーの上着、どちらにしますか?」と2択を提示することで、利用者が自分で選んだという感覚を持ちやすくなり、拒否的な態度が減少します🧩。

迷った場合は、指差しや実物提示で補助する

一度に複数の指示を出さず、「一声かけ=一動作」を徹底する

選択肢は二つだけに絞り、本人が決められる環境をつくる

※エビデンス


厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
失行・遂行機能障害への具体的配慮として、手順分割・簡潔指示・選択肢の限定を提示。認知負荷を下げることで拒否や混乱を抑え、ケアの通りやすさが高まると解説しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

🔶環境調整(音・光・合図の最適化)

国立長寿医療研究センターのマニュアルでは、非薬物的介入の核として環境調整と多職種連携が推奨されています。音量や照明を整え、統一した短い合図(例:短いチャイム)で切り替えを共有します🔔。

※エビデンス

国立長寿医療研究センター(NCGG)
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
BPSDやせん妄の増悪因子(騒音・睡眠障害・感覚刺激)に対する環境介入を体系化。非薬物を第一選択とし、評価→調整→多職種連携で症状の安定化を図る手順を示しています。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

🔶安全優先の介入基準(危険時のみ即時介入)

NCGGのDST資料では、転倒・誤嚥などの危険時は即時介入、それ以外は見守りを基本とし、身体拘束は最小化する運用が示されています。安全確保と自律の両立を明確にします🛡️。

※エビデンス


国立長寿医療研究センター(NCGG)
認知症・せん妄サポートチーム(DST)マニュアル
BPSD対応の原則として、原因探索と非薬物的介入の優先、身体拘束回避、安全確保の判断基準を提示。多職種での合意形成と標準手順により、リスクと尊厳の両立を目指します。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/DST2016.pdf

最後に、厚生労働省のガイドラインでは非薬物的介入を第一選択と言われています。今日から「短文→待つ→同一表現」を合言葉に、見える化と手順分割・2択をチームで統一し、静かな環境と明確な安全基準で運用していきましょう。


🔷事例:現場でよくあるケース3選——質問反復・更衣停滞・食事開始

時間に追われる中でも、関わり方を少し整えるだけで空気は落ち着きます。以下は、現場で頻度の高いケースを「手順で安定させる」視点でまとめた実践例です。

介護施設のリビング

🔶ケース1「今日は何日?」が何度も続く

「厚生労働省の研修教材では、短く同じ表現で返し、反応を待つことが有効と言われています」。

  • 対応の流れ:短文で回答→5〜10秒待つ→同一表現で再提示→指差しで補助
  • 例:「今日は10日です」→(待つ)→「10日です。ここです」(卓上カレンダーを指差し)
  • 置き土産:“今カード”(日付・曜日・次予定)を視界に常設して再質問を予防
※エビデンス

厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
中核症状と配慮点を整理し、「はっきり・ゆっくり・一度に一つの指示」「驚かせない・急がせない」を提示。短い声かけと一定の待機、同一表現の維持、視覚手がかりの併用が理解と安心の土台になると説明している。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

🔶ケース2 更衣が進まず時間が押す

厚生労働省の研修教材では、実行機能の負荷を下げるため“一動作ずつ”“2択提示”が有効と言われています。

  • 対応の流れ:右腕を通す→待つ→左腕を通す→待つ→前ボタンの上2つだけ
  • 2択:「青とグレー、どちらの上着にしますか」(どちらでもOKの二者択一)
  • 見本:職員が動作を示す/袖口を軽くタッチして方向付けする🧥
※エビデンス

厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
遂行機能障害への支援として、複数指示の同時提示を避け「一度に一つの動作」を明確化する方法、意思決定の負担軽減として「選択肢は二つに限定」する方法を紹介。拒否・混乱の低減と自律性の保持に有効であると解説している。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

🔶ケース3 配膳後に手が止まり食べ始められない

日本高次脳機能障害学会の論文では、ゆっくり話し反応を待つ姿勢が有効と言っています。

  • 対応の流れ:開始の合図(短文)→5〜10秒待つ→同一表現で再提示→同時に一口
  • 例:「スプーンで一口どうぞ」→(待つ)→「一口どうぞ」(介助者も同時に一口)
  • 視覚:スプーンを手に触れて持ち替え補助/茶碗の位置を近づける
※エビデンス

日本高次脳機能障害学会(学会誌『高次脳機能研究』)
認知症者のコミュニケーション(池田 学)
病型差を踏まえた支援の要点を提示。会話・行為の開始には環境調整と“待つ”姿勢が有効で、十数秒の待機で適切な反応が得られる例を報告。非言語的サイン(うなずき・同時動作)の重要性を強調している。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/35/3/35_292/_pdf

小さな一貫性が大きな落ち着きを生みます。次の勤務から、短文→待つ→同一表現と“見える化”をセットで試し、フロア全体の合言葉として共有していきましょう


🔷理由:なぜ“待つ勇気”が効く——認知特性・BPSD・環境の科学的背景

忙しさのなかで急かすほど混乱は増えます。根拠に基づく“短文→待つ→同一表現”と環境調整は、理解を助け、BPSDの悪化を防ぐ実践的な方法です。

🔶情報処理の遅延とワーキングメモリの限界

「厚生労働省の研修教材では、短く一度に一つの指示が推奨されています」と言われています。長文や多重指示は処理渋滞を起こすため、短文→待つ→同一表現で負荷を下げます。

※エビデンス

厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
中核症状(記憶障害・失行・実行機能障害)に配慮した関わりを提示。「はっきり・ゆっくり・一度に一つの指示」「驚かせない・急がせない」を明確化し、短文と待機が理解・行動の成立に有効と解説しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

🔶非薬物的介入が第一選択であること

「厚生労働省のガイドラインでは、BPSD対応は非薬物的介入を第一選択とすると述べています」。薬物は最小用量・定期的な中止検討が原則で、まず環境・関わり方を整えます。

※エビデンス

厚生労働省
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSDはまず原因評価と環境・心理社会的介入で対応し、薬物は限定的に使用。専門医連携、効果・副作用のモニタリング、中止可能性の検討を求め、非薬物先行の実践枠組みを示しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf

🔶環境調整と多職種連携の効果

「国立長寿医療研究センターのマニュアルでは、音・光・導線の調整と多職種連携が有効と言われています」。刺激過多を減らし、合図を統一すると開始行動が出やすくなります。
※エビデンス
国立長寿医療研究センター(NCGG)
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
騒音、強照明、夜間覚醒、痛みなど増悪因子を評価し、病棟・施設環境の調整とチーム介入で非薬物的に安定化を図る手順を提示。合図の統一や導線の簡素化が行動の開始・継続を支えると述べています。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

🔶反応を“待つ”ことの臨床的有効性

「J-STAGEの論文では、ゆっくり話し反応を待つ姿勢が理解を助けると報告しています」。十数秒の待機で適切な返答が得られる例があり、非言語サインの活用も推奨されます⌛。

※エビデンス

日本高次脳機能障害学会(学会誌『高次脳機能研究』)
認知症者のコミュニケーション(池田 学)
病型差を踏まえた関わり方を整理。静かな環境、短い表現、反応を待つ姿勢、うなずき等の非言語的支援が理解と応答を促すとし、DLBでは反応遅延があっても待機で適切な応答が得られる事例を示します。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/35/3/35_292/_pdf

🔶標準化で属人性を減らし、再現性を上げる

「NCGGのDSTマニュアルでは、標準手順と合意形成が重要と言われています」。合言葉・合図・掲示の統一で“誰が関わっても同じ質”を実現し、衝突とやり直しを減らします🧭。

※エビデンス

国立長寿医療研究センター(NCGG)
認知症・せん妄サポートチーム(DST)マニュアル
非薬物的介入を軸に、原因探索、安全確保、身体拘束回避、情報共有を標準化。プロトコル運用とチーム合意により属人性を低減し、BPSDへの継続的で一貫した対応を可能にする枠組みを示しています。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/DST2016.pdf

積み重ねるのは“我慢”ではなく“手順”。今日から短文→待つ→同一表現と環境調整をチームで揃え、再現可能な関わりでフロア全体の安定を育てていきましょう。


🔷よくある質問

Q
介護・認知症で同じ質問を何度もされてイライラする時、どう対応すればいい
A

短文で答え、5〜10秒待ち、同一表現で再提示します。卓上カレンダーや“今カード”(日付・予定)を指差しで補助し、言い回しは統一します。急かす言葉は避け、落ち着いた声量で繰り返します。

※エビデンス

厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
中核症状に配慮した関わりとして「はっきり・ゆっくり・一度に一つの指示」「驚かせない・急がせない」を提示。短い声かけと一定の待機、同一表現の維持、視覚的手がかりの併用が理解定着に有効と解説。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

Q
動作が遅い利用者への声かけのコツは何
A

「一声かけ=一動作」を徹底し、手順分割で負荷を下げます。意思決定は2択(例:青の上着/グレーの上着)に限定し、見本動作や指差しで補助します。成功した小ステップをすぐ言語化し、次行動へつなげます。

※エビデンス

厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
遂行機能障害への対応として、複数指示の同時提示を避け「一度に一つの動作」を明確化し、選択肢を二つに限定する方法を推奨。これにより混乱・拒否の低減と自立支援が進むと説明。
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

Q
どのくらい“待つ”のが適切
A

まず5〜10秒を目安に沈黙と頷きで見守ります。反応がなければ同一表現で再提示し、指差しやカードで視覚補助します。状況により十数秒の待機が有効なこともあります。

※エビデンス

日本高次脳機能障害学会(学会誌『高次脳機能研究』)
認知症者のコミュニケーション(池田 学)
静かな環境、短い表現、反応を待つ姿勢、非言語的支援の有効性を整理。病型によっては反応遅延がみられるが、十数秒の待機で適切な応答が得られる例を提示し、待機の臨床的意義を示す。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/35/3/35_292/_pdf

Q
イライラして強い口調になりそうな時の対処は何
A

声を上げる前に環境を整えます(音量を下げ、照度をやわらげ、合図を統一)。深呼吸や一時離席で自己調整し、短文→待つ→同一表現へ切り替えます。BPSDへの対応は非薬物的介入を先行させます。

※エビデンス

厚生労働省
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
BPSDはまず原因評価と環境・心理社会的介入で対応し、薬物は最小用量・短期間・定期的な中止検討を原則とする。非薬物的介入の先行と多職種連携、モニタリングの重要性を明示。
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf

Q
チームで対応を統一するにはどうすればよい
A

合言葉(主語+1文→5〜10秒→同一表現)・合図(柔らかいチャイム)・“今カード”の様式を統一し、記録→カンファ→修正のサイクルを定例化します。危険時即時介入の基準も共有します。

※エビデンス

国立長寿医療研究センター(NCGG)
認知症・せん妄サポートチーム(DST)マニュアル
非薬物的介入を軸に、原因探索、安全確保、身体拘束回避、情報共有を標準化。プロトコル運用とチーム合意で属人性を低減し、BPSDへの一貫した対応と安全・尊厳の両立を可能にする枠組みを提示。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/DST2016.pdf


🔷まとめ:今日から始める現場実践7選——言葉を減らし、待ち、見える化する

本記事では、厚生労働省のガイドラインでは非薬物的介入を第一選択と言われています、国立長寿医療研究センターのマニュアルでは環境調整と多職種連携が有効と言われています、J-STAGEの論文では反応を待つ重要性が示されています——という根拠を基に、短文→待つ→同一表現と視覚ヒント・手順分割・2択・環境調整を軸にまとめました。小さな一貫性が、フロア全体の落ち着きと仕事のしやすさを生みます。

  • 今日からの実装:“今カード”設置/掲示の統一合言葉(主語+1文→5〜10秒→同一表現)2択テンプレ配布
  • 運用の型:評価→実施→記録→カンファ→修正(多職種で合意)
  • 安全原則:危険時のみ即時介入、それ以外は見守りを基本に😊

明日も完璧でなくて大丈夫です。合言葉と見える化をチームでそろえ、少しずつ“やり直し”と衝突を減らしていきましょう。

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出典
厚生労働省
認知症ケア法-認知症の理解(研修教材)
https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/000701055.pdf

厚生労働省
BPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第3版)
https://www.mhlw.go.jp/content/001518446.pdf

国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄ケアマニュアル 第2版
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/nintishomanual2025.pdf

国立長寿医療研究センター
認知症・せん妄サポートチーム(DST)マニュアル
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/DST2016.pdf

日本高次脳機能障害学会
認知症者のコミュニケーション(池田 学)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hbfr/35/3/35_292/_pdf

厚生労働科学研究(厚生労働省研究班)
令和元年度 総括・分担研究報告書「認知症の人と家族のケアのために」
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192121/201917009A_upload/201917009A0005.pdf

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